遺 詠  
 
   
国の為思へばいとど死もかるくわれチャンギーの露と消えなむ    
浅井 健一
夢さめて友の寝顔を眺むれば何時か涙は頬ぬらすなり        
芝 嘉寛
踏み来る途は落葉に埋れども下に流るる水の清けき         
竹本 忠男
戦友等眠る比島の島を眺めつつ他國の土と散るも又よし       
橘 政雄
天と地を隔つと言へど御身達の指針となりて我れ進まなん      
三浦 光義
思ひても術なき身とは知りながら皇御國の道は如何にと       
宮崎 凱夫
皇國(くに)の為何ぞ此の身の惜しからん散りて甲斐ある桜花なりせば
織田 進
今にみよ我は護國の火となりておごる夷を焼き払はんぞ       
加藤 広明
國の為の身は南海に沈むとも霊は永遠に大和國守らむ        
小崎 福一
親にうけ君にささげし此の血もて空しく染むる刑場の土       
徳本 光信
日の本のゆるぎを固む人柱埋れ甲斐ある此の身なりけり       
金子 稔
ぬば玉の露の命と知りつつも尚はげみなんのちの世のため      
木村 長五郎
すじみちの立たぬ裁きに散り逝きし大和桜のもゆるうらみは     
久留田 巌
仇なせる国人に勝るちゑみがき永久に栄えよ日本の国        
菅沢 亥重
ひとたびは行かねばならぬ人の道親に先立つ心くるしき       
武田 定
七度生まれかへりて務めなん君と国との役に立つ迄         
中山 春美
草枕旅ゆく今宵妻子らは筑前の果てに寝てあらむか         
藤中 松雄
寄せ縫ひの無垢を送りて逝く我に別れを惜しむ友は床しき      
村上 博
日を経つつ友は減りゆく此の棟の朝夕に経の声高し         
横山 勇
いとし児を妻に残して征で立ちしはかなき命あわれとぞ思ふ     
吉田 徳次郎
大君の千代万代と祈りつつ心静かに花の散るらむ          
阿南 三蘇男
振りかへり恥ずることなし捨小舟水の流れにそひし身には      
内村 貞雄
水のごと澄める心を誰知るや我れ刑台に笑みてのぼらん       
金田 貞夫
身はたとえ南の土と化するとも皇御国を護り通さん         
小林 庄造
春風にさそわれて散る桜花心のうちにかかる雲なし         
星谷 義彰
暫くはABCにまかすともやがて時得て光る日の本          
都留 義広
露と消ゆ我が身は更にいとわねど心に残る日本の行末        
中島 環

終に刑場に来ました。後数時間の命です。
最早何も云ふことはありません。
私の死生観は今日白熱してゐます。
家、國を思ふ心は盡きなく湧いてゐます。
佐賀県出身
 小野 哲