遺 詠  
 
   
妻よ子よ御慈悲の舟で我は往く又会う時は弥陀の御許で        
和田 喜代治
今日ぎりの生命にしあれば糞も愛しかりけり刑死の朝         
出水 浪雄
一塵の鷹の落し毛にも心ひきて今朝運動の獄庭に捨てぬ        
榎本 宗応
戦友の情けに灼くる囚屋かな                    
太田 秀雄
うつし世の覇者権勢のいたづらと笑って死なん大丈夫(ますらを)の友 
加藤 実
逝く道は静かに明けて故郷へ帰るが如し大親待つらん         
桑畑 次男
常夏の思い出多き島に散る亡き中隊長の後を慕ひて          
小玉 寿吉
昭南に捨てゆく命惜しまねど心にかかる今の世のさま         
伊牟田 義敏
ひそかにぞ待ちに待ちたる今日ぞ今日大和桜の香をぞ止めん      
大塚 則行
ますらをのみち果してぞ重き罪背負い逝くなりもの想ひもせず     
小場 安雄
罪なくて散るも浮世のならいぞと吹き行く風はつれなかりけり     
中村 鎮雄
十六夜の月を眺めつ歌聞けば死出の旅路も心ほがらか         
南部 義一
わすれじと行く末までは難けれど今日を限りの生命ともがな      
浜崎 直記
みはたとへ異國の土にきゆるとも残して置くぞ大和魂         
福本 幸男
そよ風に苦しき時を忘れ居て夜半のあらしにいざ散りゆかむ      
穂積 正克
月に雲花に嵐と悟り得てみは秋晴のそらをまつのみ          
堀内 豊秋
身はたとへ唐土の野に朽ちぬとも誠や神のしろし召すらむ       
前崎 正雄
破れては賊と呼ばれて朽ち果つる世のならはしのいとど身に沁む    
米村 春喜
今日よりは生まれかわりてすめぐににかへり尽せることぞ嬉しき    
小野 哲
身はたとへ南めいの地に散りぬとも國の栄を唯祈るかな        
沢野 源六
皇國の永遠の栄へ祈りつつ心やすけく南溟に散る           
納富 秀雄
雲低きシンガポールに今ぞ散る益良武夫の香り留めて         
橋口 正男
我死なば土となるべし南のみのり培ふその野辺の土に         
山田 規一郎
美しき神の國へ招われて暮れ行く空へ明日ぞ旅立つ          
池田 末吉
やぶるればとがなきものもつみに散る今も昔も世のならひかな     
古瀬 虎獅狼
益良夫のかなしき道ぞ一条に恋ひ慕ひつつ吾れはゆくなり       
早田 清高
吾が生命あと一時に迫れども曇る事なき日本晴れなり         
野中 荘三

私の肉体は亡ぶ、これは自然の法則だ。
  木の葉が落ち花が散る、これも自然である。
  ・・・・・・・・・
  自然は美しい。自然は清い・・・・・
 自然はやさしい。自然は強い・・・・・
 この数日私は自然を眺めよう、自然に帰ろう。
 そしてまた御奉公するのだ。
 御恩に報いるのだ。
鹿児島県出身
 松岡 憲郎