夫れ天行は健かに寓物みそだつなり
されど無常の理は月に叢雲花に風
さしも金甌無欠なる我が日本を襲ひけり

頃しも昭和の御宇なりけり戦雲四方に漲りて
いまは耐えなん術もなく皇の勅をかしこみて
降魔の利剣うち佩きつ正義の師をぞ起しける
戦の庭に立ち向ふ戦人らは勇ましく
鉄をもとかす南溟に朔風荒ぶ大陸に
術をつくして戦ひぬ国に残りし民草は

老も若きもおしなべて精の極りをつくしける
されど時利あらず騅(すい)行かず四海を挙げて我を攻む
大勢日々に不利にしていまは施す術もなく
大御心の在すまま聖慮を仰ぎかしこみて
一時の恥をしのびつつ無念の局を結びけり
ここに憐をとどめしは国破れたる悲しみの
ふかき憂のその中にあらゆる自由奪はれつ
独り異域に残されて獄屋に深く繋れし

戦犯の様奏でんに聴く人誰か泣かざらん
敬ひしたひし上官も生死を誓ひし戦友も
迎への船にいざなはれ遠く祖国にかへり行く
春は花咲き鳥唄ひ夏は岸辺に蛍飛ぶ
皎々たりや秋の月寒さ身にしむ冬の空
四季とりどりのおとづれも囹圄の身をばいかにせん
思へば長き戦場に東に奔り西に行き
畫夜寒暑もものかわと唯ひたすらに戦ひて
樹てし功の数々もいまははかなき夢と化す
独り獄屋に端座して瞼にしのぶ東の
愛し祖国よ三千里翼なき身のいかにして
生死伝えん術もなく悲運を嘆くばかりなり
あはれ獄屋の明け暮れはこの世の地獄さながらに
月日移りて果ての日は街のすみずみ引廻し
鬼畜の如き群衆の歓呼の中に鬼と化す

心ある者忘るなよ戦敗れしその蔭に
無念の涙しのびつつ祖国の方を伏し拝み
国に殉ぜし戦犯を国に殉ぜし戦犯を

君が為 国の為にと 戦ひし
いくさ 人らに なぞ とがやある